
仕事帰り、先輩が「雨が降る匂いがする」と言った。
今まで意識したことはなかったけれど、実際に雨の匂いというものはあるらしい。
植物の油分、土壌中の微生物が作るゲオスミン、オゾン。
ちなみに、その日はからっ晴れだったけど、次の次の日は小雨だった。
どのくらい先まで効力があるのだろう。雨の匂い。

仕事帰り、先輩が「雨が降る匂いがする」と言った。
今まで意識したことはなかったけれど、実際に雨の匂いというものはあるらしい。
植物の油分、土壌中の微生物が作るゲオスミン、オゾン。
ちなみに、その日はからっ晴れだったけど、次の次の日は小雨だった。
どのくらい先まで効力があるのだろう。雨の匂い。
仕事が終わって、いつものように電車に乗った。
考えごとをしていたら、1駅乗り過ごしてしまった。
「あ~あ」
ため息をつきながら帰っていると、前を歩いていた女性が私の住むマンションに入って行った。
女性はエレベーターを待っている。
いつもなら同乗しないが、今日は疲れている。
一刻も早く家に帰りたい。
軽く会釈をしてエレベーターに乗り込み、自分の階のボタンを押した。
女性は後方にいる。
扉が開いたので、そそくさとエレベーターを降りた。
私の後に続いて、彼女もエレベーターを降りた。
隣の部屋の住人か。
そんなことを考えながら、鍵を差し込む。
開かない。
なぜだ。
女性はずっと後方にいる。
なぜだ。
鍵穴を見て、鍵を見て、部屋番号を見る。
下の階だ。
振り返ると、彼女はふふっと笑っていた。
彼女の部屋だった。
平謝りして急いでその場を離れたが、ふと気づく。
エレベーターの後方にある階数表示は、押された階が全て光る。
彼女は気づいていたのではないか。
私が間違った階で降りたことも。
彼女の部屋の前で鍵を回していたことも。
そして、また思う。
なぜだ。
なぜ最後まで見届けたのかと。
朝から空がどんより曇っていて、ぱらぱら小雨も降ってきた。
髪がうねるから、一つにまとめて家を出た。
今日は木曜日。まだ二日もある。
俯き加減で歩いていると、白くて丸いふわふわが見えた。
帰りも丸いままだといいなと思いながら、仕事に向かった。
帰り道、まだ丸かった。
意外と耐久性がある。
明日も丸いといいな。

金曜日も丸かった

箸置きは別になくてもいい。なくても特段困らない。
なのに今日も、わさびの箸置きに合う箸の色について考えている。
忙しい日は、台所に立つ気力もない。惣菜とカットトマトを急いで食べる。
時間がある日は、白い皿がいいか、黒がいいか、青がいいか、暫く悩む。
鉄フライパンで調理する時、タンパク質と炭水化物の挙動の違いについて真剣に考えることもある。
無駄かもしれない。でも、落ち着く。

父は時々、私に英単語の意味を聞いてくる。
ある土曜日の昼、実家に帰るとまた父から聞かれた。
「“パパ アウト エーアイ”ってどういう意味?」と。
だから私は答えた。パパはAIが苦手だと。
父はしっくりこない顔をして部屋に戻って行った。
だから、私はチャットgptに聞いた。
パパはAIに大慌てと返ってきた。
同レベルだった。
しばらくして、父の部屋から音楽が聞こえてきた。
“Papa, où t’es ?”
歌詞は分からない。
ただ、絶対に「パパはAIが苦手」でも、「パパはAIに大慌て」でもない。そんな気がした。
今日も平和だ。

箸置きがある世界に生まれて幸せだ。
水色のスケボーには白熊が合う。
赤のスケボーにはピンクの小鳥が合う。
じゃあ、鯵の開きには何色が合うのか?
水色は美味しくなさそうに見える気がする。
赤はまずまずだけど、何か違う。
黄色はどうか。
…ピッタリだ。
鯵の開きには黄色のスケボーが合うことが分かった。
今日も平和だ。


猫がわざわざ私の腹を踏みつけて横ぎっていく。
暑くて布団から足を出したら、指をたまとって逃げていく。
冷蔵庫の前に行くとスリスリしてくるので鰹節をあげる。
匂いをかいで逃げていく。
新しい鰹節を開けたら戻ってきてスリスリする。
古いのは私が食べる。
今日も平和だ。