カテゴリー: 96歳の先生の教え

  • なんでも一番じゃなくていい

    先生は誰でもすぐに褒める。

    昨日は看護師さんに「あなたは綺麗」と言ったあと、
    「私は顔は綺麗じゃないけど、頭は良かった。」
    と笑っていた。

    今日も、通りかかった介護士さんを見て、
    「足が長いね。」
    「走るの速かったやろう?」
    と声をかけていた。

    その介護士さんが行ってしまうと、今度は私に向かって、
    「私は足が短い。」
    「走るのも遅くて、運動会が嫌いやった。」

    「でも私は頭が良かった。」
    「なんでも一番にならんでもいいやろ?」
    と言って笑っていた。



  • 他人の悪い所は片目で

    「他人の悪い所は片目つぶって見る。良い所は両目でしっかり見る。一歩下がって、相手を観察するのはダメ。」
    と、先生は言っていた。

    確かに、自分のことは棚に上げて、他人のことは厳しく見てしまいがちだ。

    それは劣等感や自己防衛から来るものなのだろうか。

    自分自身や周りの環境に不満があると、人は否定的な見方をしやすい。でも、地位が高くても、頭が良くても、お金があっても、他人を厳しく批判する人はいる。

    幼い頃から身につけてきた考え方なのか。
    それとも、相手の欠点を見つけること自体が生き延びるための本能なのか。

    答えはまだ分からない。

    仮に理由が分かったところで、人を批判したくなる気持ちはなくならないかもしれない。

    それでも先生は穏やかな笑顔で、
    「私は人が大好き。人の悪い所は片目で見るくらいがいい。」
    と言う。

    その言葉にはきっと、私にはまだ見えていない景色があるのだろう。

    とりあえず、今日は先生の真似をしてみようと思う。

    人の悪い所は片目で。
    良い所は両目で。

  • 心を綺麗にしておく

    「嫌なことを言われても、可哀そうな人だと思って受け流す。自分も同じことを言ったら心が汚くなる。心を綺麗にしておくといい顔になる。」

    と、先生は言った。

    とはいえ、綺麗ごとでは済まないこともある。

    嫌な言葉。嫌な態度。

    受け流そうと思っても、なかなか出来ることじゃない。

    正直、先生は元々そういう性質の人なんじゃないだろうかと思った。

    「難しいです」と伝えると、先生は笑って言った。

    「最初は難しくても、意識してやっていると出来るようになるよ。」

    その言葉に、少しほっとした。

    先生は96歳なのに、眉間にしわがない。

    肌はつやつやしていて、優しく、かわいらしい顔をしている。

    先生自身がその言葉を証明してくれている。

    もし本当に心掛け次第なら、私にもまだ望みはあるのかもしれない。

    私もいつか、そんな顔で歳を重ねたい。

  • 生涯現役

    時々、96歳の元小学校教師のおばあちゃんと話すことがある。

    認知症があって何度も同じ話をしてくれるのだが、大抵は先生時代の話だ。

    一昨日会った時は、
    「私は、子どもが勉強ができなくても叱ったことはない。頑張った過程を褒めてやる。」
    「子どもの心を育てることが先生の役目」と言っていた。

    だから、私は「心を育てるにはどうしたらいいんですか?」と質問した。

    すると、考える素振りもなく、笑顔で、
    「そんなことも分からんとね」
    「困っている人がいたら助けてやること」と言った。

    とてもシンプルな答えだった。

    家に帰ってからも、なんとなくその言葉が頭から離れなかった。
    心というのは、行動の積み重ねで育っていくのだろうか。

    そんなことを考えながら、おばあちゃんの日頃の言動を振り返ってみる。

    食事の時、隣の席のおばあちゃんが寝ていると、「起きてご飯を食べんね」と声を掛ける。
    起きて食べ始めると、「偉いね」「凄いね」と笑顔で見守っている。
    そして、介護士さんに「人のことはいいから、自分のご飯を食べてください」と注意されている。

    ふと腑に落ちた。
    おばあちゃんは、目の前にいる人にずっと手を差し伸べ続けているのだ。

    そういえば、私のこともよく褒めてくれる。
    「目が綺麗」「肌が綺麗」といった具合に。

    先生を退いてから何十年も経つのに、相手が子どもじゃなくなっても、自然とやっている。

    「褒めて伸ばすこと」
    「困っている人を助けること」

    特別なことをする必要はないのかもしれない。
    目の前にいる人に、少し手を差し伸べること。
    良いなと思ったことを、少し言葉にして相手に伝えること。

    96歳になっても、認知症になっても、先生は現役だ。
    格好いい。